■ 結露と耐久性 住宅に求められる最も基本的な要件は、「構造の耐久性」と「快適な室内環境」です。 そして、構造の「耐久性」と「快適な室内環境」に最も大きな影響を与えるのは「結露」と いう現象です。 結露の原理 結露は、水分を含んだ空気が冷やされたとき発現します。逆に言うと、 ?水分を含まない空気が冷やされても結露は発現しません。 ?水分を含んだ空気でも冷やされなければ結露は発現しません。 結露のキーワードは、飽和絶対湿度(飽和水蒸気圧とも言う)と、相対湿度(単に湿度と言 う)の関係がすべてです。空気が含むことの出来る水分(水蒸気)量の限界は、その空気の 温度によって決まっています。この限度量を飽和絶対湿度と言いい、湿度100%となりま す。 例えば、飽和絶対湿度(湿度100%)は、空気の温度が、 +30℃の時は、30.4グラム/m3 、 +25℃の時は、23.0グラム/m3 、 +20℃の時は、17.3グラム/m3 、 +15℃の時は、12.8グラム/m3 、 +10℃の時は、 9.4グラム/m3 、 + 5℃の時は、 7.8グラム/m3 、と決まっています。 同じ、湿度60%と言っても空気の温度により含まれている水分量は違います。 +30℃の時は、30.4×60%=18.2グラム/m3、 + 5℃の時は、 7.8×60%= 4.7グラム/m3 、となります。 ?温度+20℃で湿度60%の空気を例にすると、 空気中に含まれている水蒸気は、17.3グラム×60%=10.4グラム/m3 です。 この空気が、表面温度が+5℃の部位に触れて冷やされ+5℃になった場合、単純計算で 10.4−7.8=2.6グラムは水蒸気として空気中に存在できなくなり、水滴となっ て結露が発現します。 ※表面温度が+15℃の部位では、10.4−12.8=−2.4グラムで、 湿度が100%を超えないので結露は発現しません。 ?温度+30℃で湿度が60%の空気を例にすると、 空気中に含まれている水蒸気は、30.4グラム×60%=18.2グラム/m3 です。 この空気が、表面温度+20℃の部位に触れて冷やされ+20℃になった場合、単純計算 で、18.2−17.3=0.9グラムは水蒸気として空気中に存在できなくなり、水滴 となって結露が発現します。 ※表面温度が+25℃の部位では、18.2−23.0=−4.8グラムで、 湿度が100%を超えないので結露は発現しません。 住宅の結露 住宅の結露には、冬に起きる結露(冬型結露)と夏に起きる結露(夏型結露)があります。 どちらも、室内の空気が、地表の熱容量(外気温度、あるいは地中温度)で冷やされて露点 温度(結露が始まる温度)に達したときに発現します。 具体的に言うと、冬の結露は外気温度の影響を受け、夏の結露は地中温度に影響を受けます。 一般的に、地中の温度は、1年を通して+14℃〜+16℃を保っているので、冬期間は、 地中温度より外気温度の方が低くなり、夏期間は、外気温度よりも地中温度の方が低くなる からです。 内部結露 空気中の水蒸気は、水蒸気圧の高い方から低い方へ、つまり、水分の多い方から少ない方へ と移動拡散します。冬期間は、屋外の空気中の水蒸気量はゼロ、あるいはゼロに近い状態に なっています。そのため、室内の水蒸気は空気と共に、壁の中、小屋裏あるいは床下を通っ て屋外へ移動拡散していきます。この時に空気中の水蒸気が冷やされると、そこで結露(結 氷)が発生します。 この現象を 「内部結露」 といい、構造体が劣化する原因となります。この現象は人の目に 触れること無く毎年繰り返されます。特に、結氷は凍融解を繰り返すため、さらに劣化が激 しくなります。 結露は、「快適な室内環境」を阻害するばかりでなく、「構造の耐久性」にダメージを与え ます。 「内部結露」を防ぐには、構造体の温度を限りなく室温に近づけるか、もしくは室内の空気 が外部に漏れないようにすることです。 (※外断熱は、構造体の温度が室温と同じになります。) 「表面結露」を防ぐには、室内に温度差を持ち込まないことです。つまり、室外と室内を明 確に区分することです。玄関、浴室、トイレ、ホール、廊下なども室内なのですから室温が 確保されるべきです。 特に、玄関は、室内と室外との接点のため曖昧な室温になりがちです。しかし、玄関といえ ども間違いなく室内です。 それ故、玄関も室温が確保されるべき空間なのです。 断熱、気密、換気をしっかりした上で、家の中から寒さ暑さを取り除くと、家の中に温度差 が無くなり、「表面結露」も発生しなくなるのです。 << 結露は、温度差の無いところでは発生しないのです。 >> ※「内部結露」とは、壁体内結露、床下結露、屋根(小屋)裏結露など、構造体の部位で発 生する結露(結氷)のことです。 ※「表面結露」とは、窓ガラス、壁、床などの表面で発生する結露(結氷)のことです。 ※夏期に、クーラー(エアコン)等の機器で強制的に室内を冷房しても結露が発現しないの は、放冷部で発生している結露水を室外に排出(除湿)して、室内空気の湿度を下げている からです。しかし、大量の外気が入り込んだ場合、入り込んだ外気が壁面等で冷やされて、 一時的に結露が発現することもあります。 ■ 快適な室温 熱は次の3通りの原理で、温度の高い方から低い方へ移動します。 ?物質(固体)を媒体として伝わる熱伝導 ?空気、水などの流体の対流によって搬送される熱対流 ?光波のように熱線として伝わる輻射(放射)伝播 人体の熱収支 人体は、体温を+36.5℃に維持するために、?〜? の原理で、周囲と熱のやり取りをし て熱収支のバランスを取っています。 ◇寒さ(暑さ)を感じるのは、熱収支のバランスが取れていない状態が長時間続いているか、 又はその状態が急激に起きたときです。 ◇涼しさ(暖かさ)を感じるのは、熱収支のバランスが一時的に少し改善したときです。 ◇寒さも暑さも感じないのは、熱収支のバランスが取れている状態が長時間続いているとき です。 室内の熱収支 外気温(地表面の空気温度)は、地球が宇宙空間との間で熱のやり取りをしている結果です。 室温は、室内と外気温(地球の熱容量)との間で熱のやり取りをしている結果です。 つまり、室温をコントロールするということは、外気温との熱のやり取りのバランスをコン トロールするということになります。 間違っても、暖房(冷房)設備で力任せに外気温とバランスを取る道を選択してはいけませ ん。何故なら、外気温は、とてつもなく大きな熱容量の天体同士が、宇宙レベルで熱をやり 取りしている結果なのですから ・・・ 一般的に、高気密・高断熱とされている住宅の「快適な室温」は、冬期では+18〜23℃、 夏期では +20〜25℃ と言われています。 別な表現をすると、住宅内のどこにいても寒さを感じることなく、住宅内のどこにいても暑 さを感じることなく生活することができる性能と設備を備えている住宅が快適な室内環境を 実現出来るのであって、「快適な室温」 は、その結果にすぎないのです。 同じ様に、暖冷房に消費するエネルギーが少ない住宅が質の高い住宅なのではありません。 快適な室内環境が実現維持された結果、暖冷房に消費するエネルギーが少なくなる住宅が質 の高い住宅なのです。 ■ 体感温度 熱の輻射エネルギー 同じ室温の住宅でも、寒さを感じる住宅、暑さを感じる住宅、寒さも暑さも感じない住宅が あります。 これには、熱の輻射伝播(熱容量)と空気中の水分(湿度)の要素が影響しています。 熱の輻射伝播とは、地球と太陽が空気を介さず熱エネルギーのやり取りをする原理です。 人体も同じように、空気を介さずに周りの物体(壁、窓、天井、床など)と熱エネルギーの やり取りをしています。このやり取りの熱収支のバランスによって寒く感じたり、暑く感じ たりするのです。 つまり、室温が高(低)くても寒さ(暑さ)を感じる住宅は、室温より周囲の物体の温度の 方が低(高)いからです。(※外断熱における熱容量は、この原理を利用します。) 熱エネルギーの輻射伝播は、熱線(光とほぼ同じ性質)として作用します。 人体は、余った熱エネルギーを周りに向けて放出していますが、熱線の輻射伝播は、空気中 の水分が多いほど乱反射、屈折が起きるため、熱移動の速度が遅くなったり自分に反射して きたりします。つまり、湿度が高いほど体感温度が高く感じるのはこのためです。 例えば、晴天の暑い日中に日陰に入ると涼しく感じるのは、その部分の地表面から放射され る輻射熱が僅かに小さいためです。 例えば、晴天の寒い中に日陰から日当たりに出ると暖かく感じるのも同じ原理です。この時、 地表面が雪で覆われている場合は、雪が地表面の断熱層として機能するため、地表からの輻 射熱はほとんどありません。それでも少し暖かく感じるのは、太陽の日射が雪に反射して倍 増するからです。 太陽を暖冷房器、地表面を壁あるいは構造体、雪を断熱層と仮定して住宅をイメージしてみ てください。同じ原理です。 黒球温度 体感温度に近い数値を表すには、黒球温度計を使用します。 この温度計は、物体から放射している輻射熱エネルギーを温度に換算できる温度計です。 極端な例で言えば、外気温が−20℃、室温が+10℃、周りの壁、床、天井等の黒球温度 が+25℃の空間があると仮定します。 この空間で寒さを感じるでしょうか? 答えは多分、快適な空間だと思います。 断熱、気密、換気が十分に配慮されている住宅の「快適な室温」 を 「体感温度」と比較す ると、快適な室温は、外気温が低い冬期では、体感温度より低い数値になり、外気温が高い 夏期では逆に、体感温度より高い数値になります。 ■ 換気と湿度 ここでは、断熱化・気密化された質の高い住宅で、かつ屋外の空気が汚染されていないこと を条件として説明します。 室内の空気は、放っておくと時間経過と共に、人体、ペット等の新陳代謝、炊事の燃焼ガス、 水分、喫煙、家具建材等が放出するVOC、化学物質など様々な要因で汚染されてきます。 換気の重要性 これらの物質を室内から除去する手段として最も有効な方法は、外気(大気)と「換気」す ることです。換気は24時間365日、季節に関係なく連続して確実に行われるべき必要が あります。「換気」は、現代の住宅において最も重要な要素になっています。 気密化された住宅において、換気を確実に行うためには明確な換気経路と適正な換気量を計 画しなければなりません。 換気方式 換気方式には、次の4つの考え方(方法)があります。 ?第1種換気・・・排気ファンと給気ファンを同時に作動させる。この方法は、換気量と、 室内外の気圧をそれぞれ独立して制御する必要がある場合に適してい ます。 ?第2種換気・・・給気ファンのみを作動させる。この方法は、室内の気圧を常に室外の 気圧より高く維持する必要がある場合に適しています。 ?第3種換気・・・排気ファンのみを作動させる。この方法は、?第2種換気の考え方と 逆になります。 ?自然換気 ・・・ファンは作動させずに、室内外の温度差、気圧差、あるいは風圧など、 自然の原理を利用して換気する方法です。高度な理論と知識が必要で す。 住宅の換気方法 住宅の換気は、屋外側の気圧より室内側の気圧が低くなる、?第3種換気方式が適していま す。その理由には2つあります。 ?室内側の気圧が低くなることによって、室内の空気は、計画された換気経路以外から漏 れ出ることがなくなり、それと共に内部結露の原因となる水分も漏れ出なくなるからで す。この場合、逆に、外気が換気経路以外から侵入してくる可能性はありますが、外気 に含まれる水分の量は、室内の空気に比べて圧倒的に少ないのと、温度が高い室内側に 侵入してくるため内部結露の要因とはならないのです。 ?排出(排気)することによって起きる気圧変化を利用すると、計画段階で比較的容易に 空気の流れを把握することが出来ます。 換気すると言うことは、当然、室温も外気温に近くなり、水分(絶対湿度)も外気に近くな ることを意味します。 熱交換換気 換気設備は、暖冷房の負荷を低減させる意味で、熱交換方式を採用する必要があります。 熱交換方式には、全熱(顕熱+潜熱)交換方式と顕熱(顕熱のみ)交換方式とがあります。 簡単に言うと、全熱交換方式は、熱以外に水分、臭い等も回収され易く、顕熱交換方式は、 熱のみを回収します。しかし、現在の住宅用の熱交換換気装置のほとんどは、両方の方式を コントロール出来るように設計されています。 湿度 一般的に、室内の適正な湿度(相対湿度)は60%前後と言われていますが、その許容範囲 は、気候風土、家族構成、主観、生活スタイルなどの様々な要因によって変化します。 住宅の耐久性、結露の観点から考えると、湿度は低い方が理想(結露域が少なくなる)なの ですが、湿度は、健康、医学的な見地からも検討されるべきです。 ?乳幼児の適正な皮膚表面の湿度は、60%前後 ?ダニが繁殖できる条件は、温度22℃〜30℃、湿度60%〜80% ?カビが繁殖できる条件は、温度25℃前後、湿度70%前後 一般的に、湿度が高くなると細菌類の繁殖域、低くなるとウイルス類の繁殖域と言われてい ます。 体感湿度 湿度も室温と同様に、数値で比較されますが、室温と同じ様に、住まう人の「体感」の方が はるかに重要なのです。 断熱、気密、換気が十分に配慮されている住宅の「快適な湿度」を「体感湿度」で比較する と、快適な湿度は、快適な室温と同様に、外気温が低い冬期では、体感湿度より低い数値に なり、外気温が高い夏期では逆に、体感湿度より高い数値になります。 ■ バランスと役割 住宅の室内環境に大きな影響を与える要素に、断熱性、気密性、および換気量があり、それ ぞれ数値化して表すことが出来ます。 ?断熱性は、熱損失係数(Q)で表され、数値の小さい方が断熱性が高いことになります。 ?気密性は、隙間相当面積(C)で表され、数値の小さい方が気密性が高いことになります。 ?換気量は、換気回数(N)で表され、回数が多いほど換気量が多いことになります。 性能の独立性 熱損失係数(Q)は、屋根、壁、床、窓、玄関ドア等の各構成部位の断熱性を総合した結果 であって、各構成部位の断熱性、断熱の施工精度は反映されません。 隙間相当面積(C)は、気密層、あるいは防湿層の施工精度は反映されますが、断熱性(熱 損失係数)は反映しません。 換気回数(N)は、換気量の大小を表しますが、断熱性(熱損失係数)及び気密性(隙間相 当面積)は反映しません。 性能のバランス つまり、室内環境に大きな影響を与える、断熱性、気密性、換気量の間には何の因果関係も 成り立たないのです。 例えば、断熱性が気密性(防湿性)より高いバランスの場合は、室温は確保されますが、構 造体側に内部結露のリスクが発生します。逆に低いバランスの場合は、室温の確保が難しく なり、室内側に表面結露のリスクが発生します。 換気量が多すぎると、空気の質は高くなりますが過乾燥になり、エネルギーロスも増えます。 逆に少なすぎると、エネルギーロスは減少しますが、高湿度になり空気の質が低下します。 また、窓の断熱はそのままにして、壁などの断熱材を厚くすれば、熱損失係数(Q)は小さ くなり、家全体の断熱性は向上しますが、そのことは、窓に結露が発生するリスクが大きく なることを意味します。 この様に住宅は、断熱性、気密性、換気性など、それぞれの性能と機能が相互にバランスさ れていなければ、「快適な室内環境」を実現することは難しいのです。 バリア層 屋外の環境から室内の環境を守るためには、いくつかのバリア層が必要です。 それぞれのバリア層には明確な役割と共に決まった順序があり、この役割と順序を誤ると役 目を果たさないばかりでなく、住宅に致命的なダメージを与えます。 バリア層の構成順序と役割 各バリア層の構成順序(室内側から)と役割は、次の通りです。 1.防湿層・・・室内の水分が構造体の部位に漏出するのを防ぎます。 2.断熱層・・・文字通り断熱を担っています。 3.気密層・・・フラグ現象などにより断熱層内部に屋外の空気が侵入するのを防ぎます。 4.透湿層・・・防湿層で防ぎきれなかった水分、あるいは断熱層、気密層から発生した水 分を外側に通過させます。 5.通気層・・・透湿層から出てきた水分を屋外に放出する機能と、外部から侵入した雨水 を屋内側に通さない機能も受け持ちます。 このように、住宅の構造強度(耐久性)と、快適な室内環境を維持するためには、様々な仕 掛けが必要なのです。 ※一般的に、防湿層と気密層が同一に論じられていますが、防湿層と気密層の役割は別のも のです。 ■ 住まいの価値 人が、「快適な生活」を実現するためには様々な道具(手段)が必要です。 そして、人は誰しも、「良い道具」を手に入れたいと願います。 「快適な生活」の価値観(定義)は、人それぞれに多様です。 当然、価値観が違えば、「良い道具」の本質も変化します。 本質的な価値 住まいは、「快適な生活」を実現するための最も重要な道具(手段)の一つです。 しかも、住まいの本質的な価値は、見ることも、聞くことも出来ないものです。 それは、「体感」でしか認識することが出来ません。 家の大きさ、形、色、デザインなどは、住まいの相対的な価値であって住まいの本質ではな いのです。住まいの本質(絶対)的な価値は、「体感」なのです。 本質的な価値なくして、相対的な価値は無意味なものとなります。 体感を担保 しかし「体感」は、長い間住んでみなければ認識できないものです。 それ故、家づくりに際しては、「体感」も含めて工務店に担保してもらう必要があるのです。 |